1話 受付嬢に惚れましたが、当たって砕けない / 当たって砕けろ受付嬢

生まれたての小鹿のように震える両足は、フロントに向かって進みだしました。

「…お姉さん、これ、もしよかったら…」

その瞬間、この世界から音が消え、時が止まったような気がしました。

2018年10月  私が国家公務員として国交省で働いていた時のことです。

<3時間前>

ジャラジャラジャラジャラ

煙草の煙が舞い上がる室内に、機械音が鳴り響きます。

画像1

中央に並べられた麻雀牌には手を付けず、目の前に並んだ14の牌を順番に捨てていきます。

「先輩、何してるんですか?」

「何って、牌を捨ててるんや?」

「いや、捨てたときに新しく牌をとらないと!
捨ててしかないから、手元に7,8枚しかないじゃないですか!」

「ほんまや、忘れてた」

たわいないミスによって、店内に笑い声がこだまします。

それから2時間ほどたっただろうか、
22時の閉店ギリギリまで遊び、念願の「ピンフ(平和)」の役も完成し、大満足で雀荘をあとにしました。

ぼくは、ピンフの役を完成させれば、世界は平和になると信じているおめでたい男なのです。

一人になったとたんに、さっきまでの幸せな時間が嘘のように思えるほど重苦しい空気が流れました。

ぼくはいつものように現状を内省します。

「こんなに地元の関西は素晴らしいのに、俺は鳥取に飛ばされてしまった。関西に月1度くらいしか帰れない。
自業自得の選択ミスや、早く転職しねえと」

焦りが脳内を敷き詰め、上司にうつされた風邪のせいで疲れ果てた体を蝕みました。

その後、同僚と別れて、一人ホテルに向かいます。

その途中、ユウチューブアカウントがぷよぷよの連鎖のように全て削除されるという大事件が起こり、10年のユウチューバー人生に幕が降ろされる事件もありました。

そして、心身共にどん底になった状態で、ビジネスホテルのドアを開いたのです。

2,3歩歩いてフロントに向かい、俯いた顔を上げたそのとき、目の前には天使がいました。

少し色の白い肌に、整った顔立ち、何よりその笑顔はぼくの心を鷲掴みにしました。

旅行好きのぼくは、今日まで100を軽く超えるほど、チェックインをこなしています。

今回もそのうちに過ぎないはずでした。

しかし、目の前のお姉さんの存在は、
いつものチェックインを、10年ぶりの一目惚れの機会、に変えたのです。

お姉さんはその笑顔で、丁寧な接客をしてくれます。

ぼくは、ネット予約の際にクレジットカードで支払っていましたが、領収書が必要なのでその旨を伝えます。

「すみません、領収書ありますか?」

「ただいま切らしてまして…すみません。
明日、ご用意させていただいてよろしいでしょうか」

「いいですよ。こちらこそ無理言ってしまってすみません。」

「いえいえ、すみません。
それとお部屋の鍵はこちらです。それと、お風呂とシャワーは1階にあちらになります。」

お姉さんはそう言って、部屋の鍵を渡してくれました。
部屋の鍵に添えられていたのは、うまい棒のハロウィンバージョンです。

お姉さんとの会話を終えた後、ぼくは放心状態で、エレベーターに乗りましたが、脳内をシェイカーでかき回されたような、頭がポォーッとする感覚が続くのです。

自らの部屋、513号室に入ったとたん、意識を失ったかのようにベッドに倒れ込みました。

ドスンという音がベットの悲鳴も今のぼくにとっては、祝福の音色です。

「ほ、ほ、ほ、惚れてもたやろー!!
可愛い、可愛い、可愛すぎる」

心の叫びは、嗚咽のように漏れ出し、ベッド上に響き渡ります。

喜多の管楽器隊は一斉にファンファーレを鳴らし、テンションが最大限に上がります…

俺はまだやれる。戦えるんだ。

お姉さんの笑顔を思い出すと、体に力が漲ってくるのです。

あんな可愛いお姉さんがいるだろうか。

タイプだ。ドストライクだ。つ、付き合いたい。

いや、けど、おれなんかじゃ。

そんなときです。
友人がぼくに言った言葉が頭をよぎりました。

「お前さ。25歳にもなって、可愛い子と話して楽しかった、で喜んでる場合ちゃうで?ラインくらい聞けよ?」と。

その言葉が思い浮かんだとき、名刺の裏にはいつのまにか連絡先が記入されていました。

「こ、これを渡そう…
可能性は低くても、もし成功すれば連絡先交換からデート…」

しかし、汚い字が書かれた紙を見て、一度冷静になります。

「こ、これ気持ち悪くね?
これを渡されたらドン引きするのではないか?」

しかし、このチャンスを逃すと、ぼくはもう二度とあのお姉さんに会うことはないのです。

リスクをとらないと、人生の栄光は掴めないのです。

今のぼくに、失うものはない。

恥ずかしがっちゃだめだ。堂々としよう。堂々と連絡先を渡そう。

気持ち悪くなんかない。たぶん。

その決意を後押ししてくれる友人はもうそばにはいません。自分で勇気を出すしかないのです。

ぼくは、お姉さんからもらったうまい棒をさくっとほうばりました。

「うん、うまい」

パッサパサのうまい棒が、口の中をさらにパサパサにしていきます。

その瞬間、決意は固まりました。

名刺と、風呂の用意を手に持ち、再びフロントに向かったのです。

30秒ほど経ったでしょうか。

良くいえば、エレベーターの中で時節を伺う。

悪く言えば、緊張で体が動かない。

お姉さんが他のお客さんと接客しているときには話すことができないので、ぼくは、エレベーターの中でお姉さんが一人になるのを待っていたのです。

そんなときに、エレベーター内にやってきたのが中国人のお客さん。

彼は、上のフロアに向かうようなので、ぼくもそれにつられて、なぜか上のフロアに移動します。

中国人を4階で降ろした後、ぼくはまだエレベーターに乗っています。

そして、6階で韓国人を乗せて、再び1階に舞い戻るのです。

エレベーターガールならぬ、エレベーターボーイとはこのことでしょう。

エレベーターから出たものの、お姉さんに話しかける最良のタイミングを見計らって、フロントをうろちょろうろちょろ。

まるで、不審者です。

しかし、ぼくは堂々としていました。

つまり、堂々とした不審者です。

そして、胸の中でこう唱えます。

「ドラマ、大恋愛で、ムロツヨも戸田恵梨香とええ感じやねんから俺もいける。大丈夫、自信を持て」

よくわからない自信のつけ方が功を奏したのか、やっと覚悟ができました。

高鳴る鼓動を抑えて、フロントに向かい、お姉さんに話しかけたのです。

「さっきはうまい棒ありがとうございました。とても美味しかったです」

するとお姉さんは、にっこりと笑いました。

「ちょっと待ってくださいねー」と言ったあと、さらに3本もうまい棒を渡してくれたのです。

予想の斜め上の神対応にぼくは驚きを隠せませんでした。

宿泊代も非常に安いのに、うまい1本で、10円引き、さらにうまい棒3本もくれるなんて、40円引きなのです。

さらにお姉さんのとびきり素晴らしい笑顔は、0円どころか、10万円以上の価値があるのです。

ぼくはテンションが上がり、さらに話しかけます。

たわいのないを、1,2分したあと、本題に入りました。

「あの、もしよかったら連絡いただけませんか。
お姉さんに、一目惚れしたので…」

そう言って、名刺の裏に書いた連絡先を渡したのです。

戸惑いの表情を浮かべるお姉さんを見て、ここが引き時だと判断します。

「よかったらで構わないので、お願いします!」

そう言って、お風呂場に向かいました。

シャワーを浴びて、湯船につかりながら、ぼくは自らの行動を振り返りました。

「俺ってとんでもなく、大胆なことをしたよな…」

しかし、さっきは少し強引すぎたような気がしたのです。

このままでは急に連絡先を渡してきた塩顔で終わってしまいます。

もっとコミュニケーションをとるべきだと気付いたのです。

こんな風にかっこよく言っていますが、ただ単に、お姉さんともっと話したかっただけなのですが。

チェックインの時の会話を、第一アタックとするなら、
さきほどの、名刺を渡すという博打は第二アタックです。

そして、今からフォロースルーのような第三アタックにとりかかります。

湯船から上がったぼくは、風呂上がりは少しイケメンに法則を確認し、再びフロントに向かいます。

そして、少し緊張が解けたおかげか、今度は意気揚々と話しかけます。

「お姉さん。
先ほどは急に連絡先渡して、驚きましたよね?すみませんでした。

いらなかったら破ってもらってもかまいませんよ(笑)
お姉さんはとても綺麗なので、彼氏がいるでしょうし」

考えうる最大限の柔和さと男らしさの平均をとった話し方が実行できたような気がします。

「破りませんよ。(笑)彼氏もいませんし…」

うそやろ?という下品な言葉を胸にしまい、ぼくはなるべく冷静に言葉を並べます。

「え?ほんとですか?」

「ほんとですよ~。けど、みなさんにこうやって渡してるんですか?」

「いや、そんなことありませんよ!
本当に、一目惚れというか天使降臨というか…」

「ほんとですか~~?
凄い堂々と渡されたので、慣れているのかなって思って」

「あー。
そう思われてしまったんですね…(笑)
もっとおどおどすりゃよかったですかね」

「そうかも。(笑)」

「けどですね?おどおどしたやつから渡されても、余計びっくりしませんか?」

「んー。そうかも?(笑)」

「こういった例ってよくありますか?連絡先を渡されたり」

「連絡先渡されたことはないですね…」

「え?じゃあ、綺麗ですね、と褒められることは?」

「容姿を褒められることはたまにありますけど…」

「え?
なら、ぼくはチャラいやつじゃないですか!」

「まあ、そうですね」

そう言ってほほ笑むお姉さんは、現世に舞い降りた天使のようでした。

天使は言葉を続けます。

「突然、連絡先を渡してくるなんて、度胸ありますよね」

度胸というお姉さんの言葉はきっと社交辞令でしょう。
ぼそりとつけたした「凄いです」のトーンの低さや、お姉さんの表情は、ぼくのこと`軽々しいやな奴`だと認識している様子なのです。

ジブリ作品「耳をすませば」のヒロイン・月島雫が、コンクリートロードを馬鹿にされた腹いせに、「やな奴、やな奴、やな奴!」と連呼しているほどの怒りは読み取れませんでしたが、ぼくの対応がお姉さんの気分を害したことは確かです。

そういった負の印象を薄れさせるために、ぼくは話題を変えることを試みます。

大阪のお化け番組「探偵ナイトスクープ」に出演したことがあるという自虐ネタでお姉さんの興味を惹きつけようとしたのです。

そしてその証拠に、ぼくと間寛平探偵のツーショット写真を提示します。
その写真を見たお姉さんの反応は、「この写真のあなたは今より、若いですね!」とにっこり。
さらに「ちなみにどんな依頼ですか?」と質問をしてくれました。

実際の依頼内容は、家族からは、あんなしょうもない依頼でテレビに出るなんて家の恥だ、と言われたほどの内容なので、言えはしません。なので、少しお茶を濁します。

「それは…野球関係の依頼で…」

「あ、野球が好きなんですか?」

「そうですよ!もしかしてお姉さんも?」

「えーと、好きというか…
野球観戦に行ったことないんで、行ってみたいなって思って」

ここから場の雰囲気が変わります。
月島雫が聖治君に対して心を開き始めたように、お姉さんの瞳がほんの少し煌めきました。

ここぞとばかりにお姉さんの会話をつづけた後、最後に渾身の右ストレートを放ったのです。

「お姉さん!」

「はい?」

「ぼくは、その、口が上手いというか、エンターテイナーの自信があります。

一生懸命、退屈させない時間を提供するので、あと、車もあるので、ぜひ今度、お食事に行きましょう!お願いします!!」

深々とお辞儀しながら放った渾身の右ストレートは、媚びに媚びた言葉となりました。

その言葉に対してお姉さんが見せた笑顔は、まるで天使と見紛うかのようでした。

―――――――――――――――――――

10代の初恋に戻ったかのように、部屋に戻ってベッドに倒れこみます。

正真正銘の一目惚れ、そしてゴリ押し。

しかし、期待してはいけません。
あんな綺麗なお姉さんは、僕につり合うはずありません。

ただ、あのドキドキ、初対面の女性と話す緊張感は、合コンとは違いました。
強引に話しかけたとはいえ、こんな自然な出会いは、最近あったでしょうか。

幸せで楽しかった時間が、マシュマロみたいに溶けていきます。

そして、あの最高の時間を掴みとれたのは、自分自身の勇気だということに気付いたのです。

悪く言えばナンパですが、声をかけるという行動がきっかけとなったのです。

泥臭くても自分から動くというのが、ぼくの原点であり、`オリジン`なのでしょう。

ベッドの中で3時間もうようよし、興奮であまり寝付けませんでしたが、翌朝の気分は爽快でした。

 

2話に続く…

 

【受付嬢の美人お姉さんに声をかけるのもオッケーですが、確実な出会いを求めるならば街コンと気づきました(笑)】




 

【貴重な時間を使って読んでいただき、誠にありがとうございました!】

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